最近は諸外国に比べて日本の物価は安いと言われることが多いし、実際そうだから外国人観光客が増えている。そして日本人の賃金も安いと。米国とか北欧ではバイトだって2000円とか4000円の時給をもらってるから日本も最低賃金は1000円を越さないといけない云々と。
日本の物価安、賃金安はアベノミクスがアナウンスされた2012年から始まったことであって、それ以前は日本は世界でおそらく最も物価の高い国だったし、それゆえ外国人が気軽に旅行に来られる場所ではなかった。
しかし安倍晋三自民党総裁が政権復帰することが確実になった2012年に後にアベノミクスと呼ばれる大胆な金融緩和政策を発表すると市場は大きく反応し、1ドル75円という史上最高値から一挙に100円を超える円安誘導に成功。そのため日本で生産されたものが対外的にいっきに割安になって日本経済が復活した。大雑把にいって3分の2ぐらいの割安感で輸出企業の競争力が断然強まった。それを裏返せば、日本人の賃金が対外的に3分の2になるし、外国人からみた日本の物価も3分の2になった。今では中国とかタイとかに比べても日本の物価安いと感じるまでになった。
それで、安倍首相もそうだが、菅官房長官も、また多くの識者も、日本の最低賃金をもっと上げるべきだと。同じ閣内でも世耕経産大臣などは、そんなに上げたら日本企業の体力がもたないと言う。
これで、世界有事が起きたらどうなるか。日本は対外純資産残高が30年近く世界1と、世界中に日本マネーが金利などを求めて外遊している。今、米中戦争真っ只中で、世界が大きく揺らぐ事態が起きる可能性がある。そうなると世界じゅうを駆け回っている日本マネーはレパトリエーションで里帰りすると、いっきに円高になっておかしくない。
すると、日本の労賃は対外的にみて安くもなんともなくなる。しかし最低賃金は上げるのは簡単だがそれは基本的に不可逆性が非常に高く、最低賃金を下げるということは政治的に非常に難しい。だから最低賃金の引き上げには慎重になるべきだ。
ところで、日本は1ドル75円という状況だとやっていけないのか?日本の高い技術力とかは、割安感がなければ誰も買わないという性質のものか?
これは種々様々であろう。
①工作機械とか重工業の製品などは世界で日本しか提供できないサービスもあって、それらは円高になってもやっていけるだろう。
②電気製品とか車などは、質は良いが、高くなったら他の質の低い他国の車で我慢しようということも出てきて、それらは競争力を落とすだろう。
③また、純粋に価格的な面で競争力を保っている分野もあろう。そういうところでは円高になれば即売れなくなって廃業、みたいなものもあろう。色々。
この①②③がどういう割合で存在するかはよく分らないが、円高になっても日本は平気か否かというのは、①の産業の場合はいいのだが、③が多ければ多いほど困る。
僕の考えでは、日本は社会主義的な発想が強い国なので、一部の人が潤っても、底辺の人が貧困にあえぐのはとても困ったことだという考え方が強い。これは悪いことではなく、日本の魅力は犯罪率の低さとかホスピタリティの高さという考えが大きいので、大切なことだと思う。
つまり、円安でなければ困る、というのは、トップランナーのことを配慮してではなく、いちばん下の競争力のあまりない人や産業を視野に入れている面が強いと思う。
つまり、円安という今の状態は、①の産業や人たちにとっては、本当はもっと高く売ってもいいけど、為替的な理由で安く売っている、とも言える。それによって③の人たちを助けているとも言える。
だから、最低賃金は上げなくていいと思う。今は人手不足だから、労働力の自由市場に委ねれば上がる圧力が自然にあるはずだし、円高になった時のことを考えれば安易に法的に上げるのはリスクがある。
つまり、もし今の日本の物価が安すぎる、賃金も安すぎるというのであれば、それは③の人たちのために、①の人たちが犠牲になってるという言い方もできる。
日本がしなくてはいけないことは、③みたいな産業や人たちが付加価値を生み出すことで割安感でないところで勝負できるような職業訓練を施すとか、低付加価値しか生めない産業から高付加価値の産業への労働力の移動ということではないか。
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